日本の国防②:「敵基地攻撃能力」から「積極防御能力」への転換では?
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昨年来、古くからの飲み友達であり、同じ奈良県出身者でもある航空自衛隊OBの尾上定正氏に、ご本人の知見を伝授していただくとともに、陸海空の各専門家も紹介していただきながら、国防政策の方向性を考え続けています。
昨年(2021年)12月6日の岸田文雄総理の所信表明演説は、「いわゆる敵基地攻撃能力も含め、あらゆる選択肢を排除せず現実的に検討し、スピード感をもって防衛力を抜本的に強化していきます」というものでした。
岸田総理は、その後も多用しておられた「敵基地攻撃能力」という用語について、最近は、使うことを止められました。
確かに「敵基地攻撃」というイメージは、分かりにくいものになっています。
昨年10月の衆議院選挙直前に、自民党『政権公約2021』の作成作業をしていた時にも、かなり悩みましたが、「相手領域内で弾道ミサイル等を阻止する能力の保有」という表現にしました。
現在の日本は戦争をしているわけではないので、「敵は誰か?」と言うと、「敵」が存在しない状況です。
今の『防衛大綱』では、中国は「安全保障上の強い懸念」、北朝鮮は「わが国の安全に対する重大かつ差迫った脅威」、ロシアは「動向を注視」ということですから、いずれも「敵」という前提ではありません。
また、「基地はどこか?」と言うと、これも特定が困難です。
北朝鮮のミサイルは、普段は地下倉庫やシェルターに保管されており、発射直前に発射地点に移動する移動式ランチャー(TEL)から発射されるそうですから、事前探知は極めて難しく、TELを発見できたとしても、ミサイル発射までの短時間に攻撃することは不可能だと思われます。
更に、国際法では、「敵が攻撃に着手した時点での先制攻撃」は違法性が阻却されるとされますが、軍事技術の進展により、「攻撃」と「防御」の線引きも困難になってきました。
過去に、石破茂防衛庁長官(当時)が、「ある国が、東京に向けてミサイルを発射するという意思を表明し、ミサイルを直立させて『液体燃料』を注入し始めた」状況を例示され、「攻撃着手の一つの判断材料たり得る」と仰いました。
しかし、近年では、「液体燃料」よりも発射準備時間が短い「固体燃料ミサイル」がTELから発射される場合や、発射されたら迎撃がほぼ不可能な極超音速飛翔体の場合の、日本における「攻撃着手の判断材料」を、検討しておかなくてはならなくなりました。
昨年12月から、自民党政調会では、安全保障調査会と国防部会で、『国家安全保障戦略』『防衛大綱』『中期防』の見直しに向けた議論を活発に行っていただいています。
個人的には、「敵基地攻撃能力」ではなく、「積極防御能力」(Active Defense)といった表現が良いのではないかと考えています。
衆院選の自民党『政権公約2021』には、「相手領域内で弾道ミサイル等を阻止する能力の保有」「弾道ミサイル等への対処能力を進化させる」「令和4年度から防衛力を大幅に強化」「新たな国家安全保障戦略・大綱・中期防衛力整備計画等を速やかに策定」「ゲーム・チェンジャー技術などの研究開発の加速化」「在外邦人等の保護と確実な退避を可能とするため、制度・運用の見直し」などを記しましたが、政調会の安全保障調査会と国防部会においては、適切な表現ぶりや有効な作戦を可能にする為の法制度整備も含めて、幅広い議論が展開されることを期待しています。