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奈良交通のおじさん

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 奈良市の近鉄学園前という駅で街頭演説をすると、必ず逢える50代の男性がいます。
 私が朝6時台に駅に着くと、既にその方は働いておられるのですが、バス会社である奈良交通の制服を着て、駅前に着くバスに乗り降りするお客様に笑顔で話し掛けながら、通勤ラッシュで混み合うバス停の交通整理をなさっています。


 演説をしながら彼のキビキビした動きを目で追うのが私の楽しみなのですが、高齢者のバス乗降を手助けしたり、子供連れのお母さんを気遣ったりと、とにかくお客様が怪我をしない様に細心の注意を払っておられるのがよく分かります。
 特に蒸し暑い夏場は不機嫌な顔をした通勤客が多いのですが、駅に着いて彼の満面の笑顔に迎えられると、いかめしい顔に一瞬笑みが浮かびます。通学途中の女子高生にも「奈良交通のおじさん」は人気があって、嬉しそうに会話を交しています。


 ある時、私もチラチラ目で追っていただけの彼と会話を交す機会に恵まれ、名刺を戴いてびっくり。「奈良交通北大和営業所所長・上條正幸」と書いてありました。「なんで営業所長さんが直々にバス乗り場の整理をされているんですかあ?」と尋ねましたら、「お客様あっての奈良交通ですもの」とのお答え。

 上條所長は、毎朝4時過ぎに起きて出勤。乗降客との朝の会話に備えて新聞に目を通してから駅頭に立つのが日課だそうです。朝6時台から10時台までで、幾つかの駅のバスターミナルで現場労働。午後は「所長さん」としてオフィスにおられるそうです。


 もともと「日本一の車掌」を目指して奈良交通に入社。車掌道を極めた頃にワンマンバスの時代となり、次は「日本一の運転手」を自負して運転手道を極めたらしいのです。今でも、「お年寄りが席に着かないうちにバスを動かしたりしないように」と後輩運転手に厳しく念を押しているそうです。


 さて、上條所長の名刺の裏には「笑う門には福来る・芸名・ユンケル上條」と書かれてありました。
 奈良交通には「お笑い演芸同好会」というのがあって、社員の皆様がボランティアでお笑い演芸の出前をされているそうです。「県民の皆様に育てて戴いた奈良交通。ご恩返しのつもりで、休暇は県下の市町村を廻っています」とのこと。


 規制緩和で、バス会社やタクシー会社は厳しい競争環境に置かれていますし、観光地としての奈良も周辺府県や海外観光地との競争にさらされています。
 上條さんを見ていて、企業や地域が競争に勝つ為の鍵は、社員や住民一人一人の「ホスピタリティー」(もてなしの心)なのだと感じました。

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