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APEC貿易担当大臣会合報告・番外編

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 タイ・コンケーンのAPEC貿易担当大臣会合報告・番外編です。


 今回のAPEC出席大臣写真撮影は、全員がタイ政府が用意して下さったタイシルクの民族衣装を着るという企画でした。


 実は出発の2週間程前に、タイのAPEC事務局から「出席大臣のバスト、ウエスト、ヒップ等のサイズを知らせて欲しい」との依頼がありました。既に中年太りの始まっている私にとって、特にウエストサイズは、決して他人に知られたくない重要な「個人情報」です。
 役所の秘書官によると、私の体のサイズは、経済産業省のAPEC室から外務省に廻され、外務省からタイ側に連絡されるとのこと。「冗談じゃあないわよっ。それでは経済産業省だけではなくて外務省でも何人もの官僚が私のウエストサイズを知ることになるんじゃない。情報が茂木副大臣あたりに流出しない保証だってないでしょう。サイズは絶対に出しませんからねっ」と頑なに拒否を続けていた私でした。
 しかしサイズの提出期限が迫るにつれ、せっかく心を込めて写真撮影用の衣装を作って下さろうとしているタイ政府に対して申し訳なくなってきました。とうとう最後は、私自身がこっそりとサイズを記入した紙をビジネス宅配便封筒に入れて自分で封をし、外務省を通さずタイ政府に直送しました。
 果たして、会議場となるコンケーンのホテルにチェックインすると、ベットの上には私にピッタリのサイズの民族衣装が用意されていました。


 ところが、私より更に横幅がある体格をなさっているマレーシアの女性大臣は、最後までサイズの提出を拒否し続けた為に、彼女の部屋に届けられた衣装は、袖に腕も通せない程小さかったのです。
 慌てたタイ政府は、数時間で大きなサイズの衣装を縫い直す羽目に・・。急な事で生地が足りなかったのでしょうか、彼女だけ違う色の衣装で写真撮影に現われたのが(ブツブツ文句も言っておられた)、不謹慎ですが笑えてしまいました。


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 タイへの出発前には、実のところ、私自身も同行する職員もSARSにビクビクしていました。
 タイは感染地域指定は受けていませんが、バンコクからコンケーンまでの飛行機はタイ航空1社しか飛んでおらず、APECメンバー21エコノミーの大臣、同行する官僚やマスコミの全員がこの同じ路線を利用するのです。中国、台湾、香港、カナダ等・・まだまだSARSで大変な思いをされている地域の御一行も同じ航空機で同じホテル。
 役所からは立派な抗菌マスクが支給されましたので、秘書官は大量のマスクをバックに入れて出発。私は手を消毒する殺菌ローションも持参しました。


 しかし、結局、一度もそれらの品々を使うこともなく帰国しました。
 今回の大臣会合では「わが国は既にSARSを殆ど克服した。まだ患者はいるものの、現在、新規の患者発生はゼロだ。怖がらずにわが国への投資を進めて欲しい」といった発言が相次ぎました。
 シンガポールのジョージ・ヨー大臣は、「先般、私は、シンガポールの人間だというだけで、ハーバード・ビジネス・スクールの同窓会から参加を辞退させられた。参加を楽しみにしていたのに悔しかった」と訴えて涙を誘いました。
 結局、他国の状況についてマスコミ報道で過剰反応をして、貿易や投資に悪影響が出るのを避ける為に、APECは「情報共有システム構築」や「越境コントロール」などの取り組みをまとめた「SARS行動計画」を承認して声明を出すこととなりました。


 そんな雰囲気の中で、日本チームだけがマスクを着用したり握手を拒否するわけにもいかず・・。握手だけならまだしも、「ハ~イ、サナエ」と満面の笑みを浮かべ乍ら抱きついてきて「ハグ」(抱き合って頬を擦り合わす挨拶)をなさる大臣とは、思わず硬直しながらも頬を擦り合わせ・・。
 直前に東京で開催されたABAC(ビジネス会合)では、「握手禁止」「マスク支給」「消毒液設置」といった状態でしたから、今回のAPECでは、あまり無防備な雰囲気に驚きました。


 3日目にもなると、日本チームもそんな雰囲気に馴れ切ってしまっていて、お皿からテーブルに転げ落ちた食物を何の躊躇いもなくフォークにさして口に入れていた職員もおりました。彼は今頃、パリで国際会議に出ているはずですが、大丈夫やろうか。


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 バイ会談をした中で、最もユニークだったのは、ベトナムのトウエン商業大臣でした。
 余りにも話が噛み合わないというか、ロジックの組み立て方がすご過ぎる(私の感覚ではちょっと変だったという意味です)というか・・・。あの会談をテレビで生中継していただいたら、かなり笑いと視聴率が取れたのではないかと思った程、普通の理屈や通常のバイ会談マニュアルの通じない相手でした。


 最初は良かったのです。今年は日越国交樹立30周年のめでたい節目。「4月のカイ首相の訪日は、投資協定が合意されるなど成功に終わり、良かった良かった」と喜び合うところから会談はスタート。


 昨年秋、ベトナム側が突然に二輪車部品の輸入制限強化をし、現地の日系オートバイメーカーの操業が停止してしまいました。私の方からこの事件に触れ、「日本企業の直接投資がベトナム経済の高い成長率に貢献しているのだから、今後は突然の輸入制限などせずに、投資環境を改善してほしい」と申し入れました。

 すると、トウエン大臣は「ハノイでは、オートバイによる交通事故が増えているので、国民が購入できるオートバイの数を制限しようと思っているのだ」と言い出しました。
 私の横にいた鷲見審議官が「副大臣、気をつけてください。彼らはこんなことを言ってまた輸入制限をかけようとしているのかもしれません」と囁きます。
 「交通事故が増えたとおっしゃるが、数の制限をするよりも、交通安全教育を充実させるとか、道路などインフラ整備をするほうが先でしょう」と私。


 トウエン大臣はムッとした顔をして「交通安全教育は既にやっている。しかし、事故だけでなく、交通渋滞がひどいのだ。ハノイでは1人の人間が3台もオートバイを持っているのだから。これを1台に制限しようと思っている」
 すごーく変な理屈! 1人が3台持っていたとしても、外出する時には、どれか1台のオートバイにしか乗れないのだから、所有台数制限が交通渋滞解消になんかつながらないもんね・・。
 呆気にとられる私たちに、ベトナム側の官僚が「既にオートバイを持っている人でも、新しいタイプのオートバイを買うと女の子にモテるんで、また買っちゃうんですよ」と説明。
 気を取り直して、「日本は今、需要不足で物が売れないから更にデフレが進行する状況です。オートバイを何台も買おうという程の需要があるからこそ、貴国は7%もの高成長なんです。消費者が欲しいものを自由に購入することを国が制限すると、景気に良い影響は出ませんよ。いずれにしても輸入制限につながる措置は困る」と申し上げますと、しばらく黙って考え込んでいたトウエン大臣は、すごいことを言い始めました。


 「それなら、ドラゴン・フルーツとオートバイをリンケージ(連携)させよう!」またまたまたポカーンと口を開けるしかない私に向かって、トウエン大臣は得意げに説明を始めました。
 「日本がベトナムからドラゴン・フルーツを買ってくれたら、ベトナムの農村の人達は金持ちになる。そのお金で、農村の人たちが日本のオートバイを買えば、ハノイで台数制限しても日本は困らないだろう」
 「ド・・ドラゴン・フルーツってどんな果物だっけ?」「さぁ・・」「あのトンがった果物だっけ?」「いやぁ、違うと思いますよ」と私と審議官はヒソヒソやりながら、「ドラゴン・フルーツは経済産業省の所管ではないので、貴国がドラゴン・フルーツを日本に売りたいという話は、農水省に伝えます。しかし、これとオートバイ関連の輸入制限は別の案件ということで・・」と言いかけると、トウエン大臣は決めのひと言。


 「米も売ってあげるよ」
 流石に切れかけていた私が「米は要りませんっ!絶対に」と返すと、
 「日本から北朝鮮に米支援を出来ないって聞いたから、それなら、日本がベトナムから米を買って北朝鮮に援助すればいいと思う」とトウエン大臣。
 北朝鮮の件はそういう問題じゃないんだよな・・と思いつつ、この頃には説明をする気力も失せていました。


 相手は大臣でありますから、これでも失礼の無いように気を使って書いているつもりではありますが、敢えて解りやすく表現すると「新橋の居酒屋で酔っ払ったおやじに延々からまれているような」感じに似ていて、理屈の噛み合わない状態で時間だけが過ぎていくしんどいバイ会議でした。この他にも、WTO案件等も話しましたが、省略します。


 「変な理屈を連発して相手を疲れさせて優位に持ち込もうという高等戦術か?それならトウエン大臣は恐るべき相手・・」「それとも国民性や民族性の違いから、交渉時のロジックの組み立て方そのものが日本人とは違うのか?ベトナム方式として勉強すべきか」と深刻に考え込んでいた私に、職員がひと言。
 「私たちは、ベトナムも含めてアジア各国とも各種交渉をしてますが、今日みたいなのは初めてですよ。まさに居酒屋に居るような気分でした。あの大臣がああいう特別なキャラクターだというだけですから、深刻に考えないで下さいよ」

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