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イラク人質事件が残した課題

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 まずは、イラクで人質となっていた3邦人の解放を皆様とともに喜びたいと思います。そして、未だ行方不明となっている内外の方々のご無事を祈りつつ書いています。
 
 正直なところ、事件発生当初、公開された犯行声明文の内容や映像に妙な不自然さを感じ、今も事件の真相がいかに解明されるのかという点には強い関心を持っています。

 それにしても、とても長く感じられた8日間でした。捕われていた3名の恐怖や彼らの身を案じるご家族の苦悩は、我々の想像を絶するものだったことでしょう。心から気の毒に思っておりました。
 一方で、ご家族がテレビ出演の度に政府の対応を批判し、「自衛隊撤退要求」といった政治的発言を繰り返される様子については、「もうこれ以上は目にしたくない」と感じていました。
 身内が生命の危機に直面しているわけですから、どんな手段を使ってでも救出したいのが人情。テレビ番組での発言も必死の思いあまってのことなのでしょうが、個人の無謀な行動の結果責任を国家に転嫁するトーンが過ぎると、国民のご家族への「同情」が「反発」に変わりかねないと思ったからです(実際に非難の声がご家族の所に直接寄せられた事を後で知って、心が痛みましたが・・)。
 加えて、ご家族の発言内容が、犯人グループや他のテロリストに「人質を取ることの大きなメリット」を確信させかねないと案じたからです。

 更には、関連番組で、ここぞとばかりに「人道復興支援なら、自衛隊ではなくて民間人が行けばよかった」「政府は、戦闘地域でないから自衛隊を出すと言ったが、やはり危険だったじゃないか」というボケた主張をする文化人が多数出現したことにも、うんざりし始めていました。
 小泉総理は「危険が想定される地域だからこそ自衛隊なのだ」と明言していたはず。「安全な所は自衛隊機で、危険な所は民間機で」というひと昔前の変な国会論議を思い出しちゃいました。
 一部マスコミには散々批判されましたが、小泉総理が、既に決定され実施されている国策を断固として変更しないとの姿勢を貫かれた事が、良い結果に繋がったと思います。

 この際、政府には、「海外での邦人保護・救出」を可能にする法制を検討していただきたいと強く願います。

 外務省は昨年2月14日以来、イラクに滞在する全邦人に対して「退避勧告」を継続して発出し、日本からイラクへの渡航については「どのような目的であれ延期」を勧告してきました。さらに昨年8月から先週までで合計27回のスポット情報を発出し、イラクにおけるテロ攻撃や誘拐の危険への注意喚起を行っているのです。
 「それでもイラクに行きたい」と言う国民に対して、法令上の強制力をもって渡航を禁止したり退避命令を出したりする権限を政府は持たないのです。渡航の自由とともに、自己責任が求められているわけです。

 国会内では、「強制的に渡航を禁止する法律」を検討すべきとの声が上がっているそうですが、これは立法技術的にも無理だと感じますし、法執行も難しいと思います。
 そもそも「出国」スタンプを空港で押すに当たって、その旅行者の行き先を特定するのは困難です。第3国経由で危険地域とされる国に陸路で入る事は出来ますし、他国の国境で日本国政府関係者が出入国者を止めて取り締まる等の現実の法執行方法が無いと思うのです。
 仮に「危険が想定される国への渡航を禁止する一般法」なるものを作るとして、「対象となる人」「対象となる地域」をどのように法律に書き込むのでしょうか?
 報道関係者を「報道の自由が有る」として例外措置にするとしたら、報道関係者の範囲をどう決めるのかということになります。フリージャーナリスト、フリーカメラマンという方々の扱いはどうするのか、そもそも何を根拠に報道関係以外の職種の方を阻害するのか、と議論の種は尽きないでしょう。
 渡航禁止地域の決め方は、もっと難しく思えます。今後、他の地域で、日本が「国連のお墨付」という錦の御旗の下での人道復興支援活動や平和維持活動に参加する事があったとしても、当該地域に国連の方針を快く思わない勢力が存在したら、日本人が誘拐やテロの対象になる可能性は有るのです。邦人の渡航を一切禁じなくてはならぬ程の危険地域を指定する基準作りというのは容易ではないと思います。
 今日の時点で、国会議員の方々がどんな立法を想定されているのか情報不足なのですが、「期間限定」「イラク限定」「現在既に自衛隊の管理化に置かれているマスコミ等の民間人以外の全国民対象」といった特措法でもない限り、イメージが湧きません。

 私が期待したいのは上記のような法整備ではなく、海外で邦人が誘拐・拉致されてしまった場合に日本政府が自力で救出を行える体制作りなのです。
 特に「外交保護権」が使えないケース、現地が無政府状態であったり日本との関係が悪い政権であったりという場合に、日本政府が邦人を救出する手段が無いのです。
 せめて拉致地点特定の為の潜入捜査を可能にする法的担保は欲しいと思います。
身を守るために必要な武器を携行した自衛隊や警察庁のチームが突入して救出作戦を行うことも法的に不可能とされていますが、私は、場所が海外であっても、国民を守る事は広義の「自衛権」に該当すると思っています。

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