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イラク攻撃間近、政府のなすべきこと

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 米英両国の決議案提出を受けた国連安保理がどんな結論を出すのか、まだ分かりませんが、イラク問題で国際社会が分裂を続けていることのデメリットを看過できなくなってきました。早く各国がそれに気付いて、「一致団結した姿勢」を打ち出すべき時が来ています。
 安保理事国の分裂によって結果的にイラクへの対応が甘くなることは、「12年間も国連決議に違反し続けても大丈夫」との誤ったメッセージを世界中に送ることになります。 それによって、国連の権威と実効性を損ねるだけでなく、他の無法者国家やテロリストには大量破壊兵器開発や兵器拡散のモチベーションを与えることになります。既に8000本の燃料棒再処理直前の北朝鮮を安心させる結果にもなります。


 昨秋、全会一致で採択された国連決議1441は、「イラクの決議違反を認め」「武装解除の最後の機会を与え」「イラクが応じなければ深刻な結果を招く」としていますが、国際社会の一致団結を打ち出すには、武力行使に慎重な仏独露の顔も立てて、「数日以内での武装解除と大量破壊兵器廃棄開始が無ければ、湾岸戦争の停戦は無効」との決議内容にするのが望ましいと考えます。
 イラクへの最後通牒的決議となりますが、これでイラクが武装解除に踏み切ればラッキーですし、そうでなければ、我々は、これ以上イラクの時間稼ぎに手を貸すことで起こり得る危険にも目を向けるべきでしょう。


 イラクが大量破壊兵器を周辺諸国で使った場合には、約5000名の在留邦人の生命が危険にさらされますし、イラクが化学兵器でイラン人やクルド人を3万人以上殺傷した過去も忘れられません。イラクが廃棄を証明していないVXガス2・4tは、2億人分の致死量です。時間が経てばテロリストや第三国への流出が懸念されています。


 平和的解決を望むならば、今こそ国連は一致団結してイラクに武装解除を求める強い圧力をかけるべきですし、その為に米英も仏独露も一歩づつ歩み寄って欲しいものだと思います。


 しかし、ここ数日間のブッシュ大統領演説を聴きますと、現実は「平和的解決」とは違った方向に進みつつあるように見えます。
 最早、「いずれにしても米軍が数日中に攻撃を始めてしまう事」を前提に日本の戦略を組み立てざるを得ない段階にきているのだと思います。
 先月中にペルシャ湾周辺に展開する米軍兵士の数は急速に膨れ上がりましたが、米軍は過去に海外に大規模な展開をして何もせずに戻ってきたことはありません。4月になると暑さと砂嵐で作戦行動は困難になりますし、これ以上の長期展開になると士気が下がり、経費は嵩み、大統領選挙への悪影響も予想されます。


 日本が平和的解決の為の努力をすることは依然必要ですが、それでもイラク攻撃が始まってしまった時の日本の選択肢は、残念ながら限られています。「米国を支持する」又は「米国の武力行使を非難する」ですが、「米国非難」は、国連決議違反をしているイラクを間接的に支援することになる上、日本の「命綱」である日米同盟関係を損ねることになります。


 ヨーロッパ諸国と違って、日本は地理的に「北朝鮮の核やミサイルや生物化学兵器の脅威」を直接受けます。朝鮮半島有事発生時に国連が多国籍軍編成に動く保証も、中露両国が努力してくれる保証も無いのです。NATOの様な包括的安全保障機構が無いアジア地域では、2国間軍事同盟により危機感を共有し確実に守ってくれるのは米国だけであると考えた方がよいでしょう。
 湾岸戦争の時の様に、事前に反対はしていてもイザとなると豹変して戦争に参加できる欧州諸国と、「集団的自衛権」を行使できない日本の立場は違います。戦時に日本が出来ることは難民・周辺国支援くらいですが、これだって手法や資金繰りについて早めに考えておかねばなりません。
 「北朝鮮問題とイラク問題は分けて考えるべきだ」という世論が大勢であることも承知していますが、自力で国を守れるだけの防衛力を持たない日本の悲しい現実です。


 選挙区に戻っても「ブッシュ大統領が大嫌いになった」「アメリカって何様のつもりやねん」という声を、よく耳にします。「米国の正義は世界の正義」「米国だけがイラクがどんなに危険な国かという情報を持っている」「世界の秩序と平和を守れるのは米国だけだ」といった大統領の態度が鼻につくのでしょうし、日本のテレビ報道を観ると、「イラクは十分に査察に協力はしてないが、素直に譲歩してきているじゃない」という印象を持つのでしょう。
 米国の独善的なやり方に納得いかない日本国民が殆どだろうと思いますが、政府は今こそ、「政府が得ているイラク関連情報」、「現在の日本が置かれている状況」、「守るべき国益」について、国民に率直な説明をなすべきだと思います。

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