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  3. 永田町日記 平成14年1月~平成14年9月
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北朝鮮問題で政府のなすべきこと 

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 突然に小泉総理の北朝鮮訪問決定が報じられた9月の週末、私は安倍官房副長官に電話をしていました。
 官房副長官は衆議院議員1名と参議院議員1名の2名で、総理の外交日程には、交替で1名が同行されます。今回の訪朝には、なんとしても拉致問題に詳しい安倍副長官に同行していただき、拉致問題の解決なく経済援助を約することのない様、外務省に睨みをきかせて欲しかったのです。特に外務省のアジア大洋州局は、過去の局長発言からも明らかなように、まずは国交正常化ありきで、拉致問題の存在を邪魔なものとして目を背けようとしてきました。
 「多分、順番からして僕が行くことになると思うよ。頑張ってくるから」と答えてくれた安倍副長官でしたが、交渉現場ではどんなに悔しく苦しい思いをされた事でしょうか。
 外務省は、入手した拉致被害者安否情報リストについて安倍副長官に口頭で伝えただけだったそうですから、後に報道番組が「死亡したとされる年月日が同じ人が居るのは明らかに不自然だ。何故この点を質さなかったのか」と批判していましたが、少なくとも安倍副長官が現場でこの点に気付く事は不可能でした。

 私は、小泉総理が国交正常化交渉の再開を約してこられたことについては、大いに評価しています。交渉の場を確保しないことには、今後の被害者の安否確認や帰国への道まで閉ざされてしまうからです。

 しかし、「日朝平壌宣言」の文面には残念でなりません。

「双方は、国際法を遵守し、互いの安全を脅かす行動をとらないことを確認した」
「また、日本国民の生命と安全にかかわる懸案問題については、朝鮮民主主義人民共和国側は、日朝が不正常な関係にある中で生じたこのような遺憾な問題が今後再び生じることのないよう適切な措置をとることを確認した」。

 まず、「互いの安全を脅かす行動」ってのは何でしょうか?これでは、日本にも問題が有るかのような表現です。
 また、金正日氏が口頭で認めた拉致への北朝鮮の関与や謝罪を書面に盛り込まなかったことも、日本に不利益をもたらすことになるでしょう。外務省は「日本国民の生命と安全にかかわる懸案問題」という文言をもって拉致問題を書き込んだことになる、と自民党外交部会に説明をしましたが、何故にここまで抽象的な表現に甘んじなければならなかったのか、理解に苦しみます。国家テロと言っても過言でない拉致問題を「日朝が不正常な関係にある中で生じたこのような遺憾な問題」と総括されてしまっていますが、国交のない国に対しては何をやってもいいと言うのでしょうか。

 上記の項目は宣言文の第3項目ですが、それより先の第2項目で「日本側は、過去の植民地支配によって、朝鮮の人々に多大の損害と苦痛を与えたという歴史の事実を謙虚に受け止め、痛切な反省と心からのお詫びの気持ちを表現した」「国交正常化の後、双方が適切と考える期間にわたり、無償資金援助、低金利の長期借款供与及び国際機関を通じた人道主義的支援等の経済協力を実施し、また民間経済活動を支援する見地から国際協力銀行等による融資、信用供与等が実施されることが、この宣言の精神に合致するとの基本認識の下、国交正常化交渉において、経済協力の具体的な規模と内容を誠実に協議することとした」と書かれています。

 拉致事件という現在進行形の重大な国際犯罪を引き起こした先方からの「痛切な反省と心からのお詫び」は全く書き込まれず、過去の条約に基づいた領土併合を日本が先に詫びた上で可能な経済協力の具体的内容にまで踏み込んでしまっているというのは、あまりにもバランスを欠いています。

 川口外務大臣は、日本からの拉致問題調査団の派遣を発表しました。絶対に先方任せにせずに、日本が主体的に事実関係の解明を急ぐことが大切なのは言うまでもありません。同盟国である米国の情報機関への協力依頼も当然必要でしょう。既に死亡されたと発表された方々が実は生存されている可能性が否定できない現在、彼らの安全を考えると、調査団派遣は一刻を争う事柄です。

 それから、外務省北東アジア課の「日朝首脳会談・概要と評価」というペーパーによると、首脳会談では、金正日氏から「(拉致)関係者については既に処罰した」との発言があったということですが、これも看過出来ません。政府は実行犯の日本への引渡しを求めるべきです。拉致犯罪の発生現場は日本国内です。日本の刑法は「属地主義」ですから、国内の外国人犯罪として訴追すべきです。
 現在、毎日の様に新たな拉致被害者と思われる方々のお名前が出てきています。福田官房長官が「拉致されたという証拠が無いのに、北朝鮮に調査を頼めない」と会見でおっしゃいましたが、実行犯の取り調べによって、新たな情報が出てくる可能性は非常に高いと思います。

 また、来月から始まる国交正常化交渉においては、拉致問題の完全解決を最優先課題とし、核やミサイル発射や不審船案件とともに国交正常化の前提条件とすること。更には、国交正常化までは一切の経済支援を行なわないことも政府内部で確認していただきたいと思います。
 一昨年秋に、北朝鮮への米支援を検討した自民党外交部会は、大荒れでした。「北朝鮮に援助をすることが日本の安全につながる」と考える太陽政策派と「経済援助は現政権の延命と北朝鮮軍強化にしかならず、かえって日本の安全を脅かす」と考える北風政策派の怒鳴り合いでした。
 当時は鈴木宗男代議士が北朝鮮への米支援を実現しようと必死で、外交部会の部屋にはいわゆる「宗男チルドレン」と呼ばれた若手議員が陣取り、私も含めた反対派が発言しようとすると、後からスーツの裾を引っ張って椅子から立てなくしたり(私はスーツを破られてしまった)、大声を上げて発言を遮ったり、今から思うと異常な状態で、まさに力づくで50万トンの政府米支援を決定したのです。賛成派には、北朝鮮との友好関係を心から大切に思う人もいたようですが、当時は日本国内の米生産者からの要請を受けて動いた議員が多いと伝えられていました。今は流石に国民世論も変わっていて、自民党内でもまずは経済支援ありき、ということにはならないだろうと思います。
 日本政府の対北朝鮮食糧支援は、1995年6月、同年10月、1996年6月、1997年10月、2000年3月、同年10月にそれぞれ決定され、6回に渡って実施されています。日朝国交正常化交渉は1991年から1992年の間に8回開かれ、その後長らく中断し、2000年に3回行なわれました。前記の食糧支援のうち4回は交渉中断中に実施されています。
 しがしながら、日本の納税者に伝えられるのは北朝鮮国民の飢餓状態ばかりでありましたし、ミサイル発射や工作船など日本の安全保障上の重大事件も発生しました。また、2000年に再開された交渉においても北朝鮮の対日強硬姿勢は変化しませんでした。外務省北東アジア課によると、「北朝鮮人民は、日本の植民地支配で甚大な被害を被った。日本の犯罪行為について納得できる謝罪と補償を要求する」という言い方で「戦後補償」なるものを要求したというのです。
 日本が北朝鮮に対して「補償」すべき法的根拠は存在しません。日本の戦後処理はサンフランシスコ平和条約に則して行なわれました。同条約2条によって、朝鮮半島と台湾と千島列島と南樺太を日本国領土から分離し、4条によって、分離地域との財産等請求権を処理したのです。
 「財産等請求権」とは、「領土分離によって生ずる互いの領土に残存する財産の返還請求その他の法的請求権についての相互精算」です。韓国とは1965年の日韓基本条約で処理済みですが、台湾、北朝鮮とは未処理だった案件です。大戦当時、朝鮮半島は日本の領土であったわけですから、法的には戦争加害者・被害者間の「補償」や「賠償」の対象にはなり得ません。あくまでもサンフランシスコ平和条約4条の「財産等請求権」処理の対象なのです。
 今回の「日朝平壌宣言」において、「1945年8月15日以前に生じた事由に基づく両国及びその国民のすべての財産及び請求権を相互に放棄するとの基本原則に従い、国交正常化交渉においてこれを具体的に協議することとした」と記されたことで、サンフランシスコ平和条約上の懸案事項が処理される方向となりました。日本側が北朝鮮の「補償」要求を退け「経済協力」の文言にこだわったところは、当たり前の事ながら、一歩前進です。しかし、繰り返しになりますが、拉致問題やアジアの安全保障に関わる全ての事項が処理されない限り、現政権の延命に手を貸す経済援助は実施すべきではありません。
 私には「北朝鮮に拉致された日本人を早期に救出するために行動する議員連盟」や自民党の部会などを通じての行動手段しかありませんが、本日このページに書かせていただいたような考え方をもって仲間とともに政府への働き掛けを続けるつもりです。

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