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英国の『国家安全保障及び投資法』

更新日:

 先月4月29日に、英国では、『国家安全保障及び投資法』(National Security and Investment Act 2021)が、女王陛下の裁可を得て成立しました。

 

 このところ、特に「経済安全保障」の分野については、包括的な法制度整備と政府の体制強化の必要性を痛感しており、何度か紹介しました通り、諸外国の法制度についても個人的に勉強を続けています。

 英国の新しい法律の内容につきましても、国会図書館の調査及び立法考査局や外務省欧州局に情報提供のご協力を頂き、資料を読み終えましたので、皆様にも、私なりに法律の概要や経緯を整理したものをお知らせ致します。

 

 英国政府は、世界経済・軍事情勢の新たな脅威に対応する為、現行の競争法制から安全保障分野を切り離し、国家安全保障分野における投資の審査体制の導入を決定しました。

 『国家安全保障及び投資法』の目的は、国家安全保障を脅かすような、潜在的に敵対的な海外直接投資(FDI)等に対し、政府の調査・介入権限を強化することです。

 

 『国家安全保障及び投資法』の概要は、以下の通りです。

 

①国家安全保障上のリスクがあるか否かを判断する為、法律で定められた取引の一部に関し、「召喚(Call-in)」の権限を、担当大臣(ビジネス・エネルギー・産業戦略省:BEISの大臣)に付与。召喚の結果、国家安全保障へのリスクが認められれば、国家が取引に介入する権限を付与。

 

②「機微な(sensitive)分野」の活動を行う企業・投資家の取引に対し、英国政府への「事前届出」が義務化され、「審査」が行われる。

 

●「機微な分野」は、「先端素材」「先進ロボット工学」「人工知能」「民生用原子力」「通信」「コンピューター・ハードウェア」「政府への重要なサプライヤー」「危機管理に関する重要なサプライヤー」「暗号認証」「データ・インフラ」「防衛」「エネルギー」「軍事又は軍民併用技術」「量子技術」「衛星・宇宙技術」「合成生物学」「輸送」の17分野。

 

③「届出の対象となる取引」は、以下の通り。

 

●外国企業・投資家が、投資対象となる英国企業等の25%超の株式または議決権を獲得する場合(既に25%以上取得している場合でも、新たにこのシェアを50%以上、75%以上に引き上げる場合も含む)。

 投資対象企業には、英国企業の他、他国の法律に基づいて設立された企業で、英国で事業を行う企業も含まれる。

●議決権取得により決議の決定・防止を行うことができる場合や、株式取得により企業の方針に実質的に影響を及ぼすことができる場合。

 

④17分野以外であっても、国家安全保障上の懸念が生じる取引や買収であるとの懸念がある場合には「自発的な届出」が推奨される。

 

⑤事前届出なく、担当大臣の承認を得ずに完了した買収は無効となる(担当大臣が取引を承認しないという介入権限を付与)。

 

⑥違反に対する制裁は、世界売上高の5%または1,000万ポンドのいずれか大きい金額を上限とする罰金と、関与した当事者に対する5年以下の懲役の、いずれかまたは両方が科せられ、買収は無効になる。

 

 以上が、『国家安全保障及び投資法』の概要ですが、英国政府が新法の整備を行うに至った経緯を書きます。

 

 従来、英国の外資規制は、『企業法』(Enterprise Act 2002)によって、行われてきました。

 安全保障、メディア、金融の3分野における買収・合併のうち、対象企業の英国での年商が7000万ポンドを超えるか、市場シェアが25%以上となる案件に限り、政府介入が可能とされてきました。

 

 しかし、『企業法』による審査制度は競争法制の一部であり、政府への「事前届出義務」が存在しないことが、問題視されるようになりました。

 

 2018年6月、2002年『企業法』を改正し、投資規制の審査対象となる分野を拡大しました。武器技術・高度軍民両用品、サイバーセキュリティ(量子技術、汎用コンピュータ)を追加したのです。

 

 2018年7月、英国政府は、国家安全保障及び投資に関する新規立法について意見公募を実施しました。

 

 2019年12月、ジョンソン首相が、議会演説で『国家安全保障及び投資法』の制定を正式表明しました。

 

 2020年6月、新型コロナ危機対応の為の暫定措置(公衆衛生の緊急時)として、2002年『企業法』を、下記の通り改正しました。

●感染症対策に直接関与する企業が買収に直面した際の政府介入権限を付与。

●審査対象となる基準額の引き下げ(100万ポンド以下での介入が可能)。

●センシティブ3分野(人工知能、暗号化認証技術、先端素材)における審査及び買収に対する介入権限を強化。

 

 2020年11月11日、英国政府は、『国家安全保障及び投資法案』を議会に提出。2021年4月29日に成立。今後、具体的な規制対象業種等の関連法令の整備をした上で、今年中に施行される見込みです。

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