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シンガポールの挑戦

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 先週は、シンガポールに短期間の出張を致しました。
 今回の出張では、私は科学技術政策担当相、IT担当相、沖縄担当相、少子化対策担当相としての立場で、先方のリー情報通信担当相やバラクリシュナン社会開発青年スポーツ担当相との会談やシンガポール国立大学との交渉(沖縄科学技術大学院大学との連携について)などを行いました。

 シンガポールは、琵琶湖とほぼ同じ国土面積で、人口は435万人という小さな国です。
 国民の人種は、中華系76%、マレー系13・7%、インド系8・4%、その他1・8%という多様な構成で、言語はマレー語、英語、中国語、タミール語などが使用されています。
 この小さな国は、エネルギッシュな挑戦により、短期間で大きな躍進を遂げました。

 まずは、「アジアの交通ハブ」としての地位を確立したことです。
 皆様がアジア諸国やヨーロッパに出かける時に、シンガポールで飛行機を乗り換えられることが多いと思うのですが、世界各国からの交通アクセスが実に便利な場所です。
 空港から都心まで車で僅か20分という便利さや政府の外国企業誘致政策が功を奏して、世界の有名企業がシンガポールに研究所や工場を設立しています。
 シンガポールの港湾は24時間稼動している上、コンテナの積み下ろしや荷物の検査や手続きにもIT技術を駆使していることから、船の接岸時間は世界最短の便利な港になっています。
 また、犯罪に対して厳しい罰則を課していることから(麻薬所持は死刑)治安も良く、国際会議開催地としても重宝されています。

 また、政府は「世界のIT首都」(インフォ・ハブ)を目指すことも公言しています。
 例えば、国立図書館と地域の公立図書館、児童図書館は全てITで繋がれています。本を借りる時も返却時も手続きは全てタッチ・パネル式のIT機器で行い、国立図書館で借りた本であっても、通りかかった地域の図書館やショッピング・センターなどに設置されている返却機に返せば良いようになっています。IT化で人件費や図書管理などにかかる運営コストは大幅に節約できたとのことです。
 国民は指紋と写真入りの身分証明カードを持っており、このカードで多くの手続きがIT機器で可能になっているのです。
 リー情報通信大臣によると、Innovation(技術革新)、Integration(統合化)、Internationalization(国際化)をコンセプトに、IT技術によって個人・産業・社会を繋ぐとともに、最上のアイデア・製品・サービスなどを世界に輸出することを目標にしているとのことでした。

 更に、「バイオ・メディカル産業の国際拠点」(医療ハブ)も目指して、インフラ整備、ベンチャー・キャピタルの提供、人材育成を強化しており、既に「アジアの一大医療ハブ」となっています。
 アジアで臨床研究を行うには最も理想的な環境が整備されており、世界の売上上位10社のうち6社の製薬企業がシンガポールで新薬の研究開発を行っています。
 また、医療水準の高さから「メディカル・ツーリズム」も盛況です。2005年には、37万人以上の外国人患者がシンガポールで治療を行っており、政府は2012年までに100万人を目標にしています。
 国立大学や研究所では、世界中から有名な研究者をリクルートしています。シンガポールで研究活動をされている高名な日本人学者にお話を伺いますと、使える研究費の額も大きく、研究をサポートするスタッフの数も日本の大学とは較べものにならない程に恵まれており、広い住居と安全な生活環境も魅力だということでした。

 多くの取組みは1990年代もしくは2000年頃から本格化したもので、短期間でかなり重点的な予算配分や大胆な制度改革が行われたことが伺えます。
 シンガポールの成功の秘訣は、「国の面積や人口規模が小さいこと」「政治が極めて安定していること」だと思います。

 国会議員の任期は5年で一院制。84議席中82議席が与党の人民行動党議員で占められています。
 ゴー・チョクトン前首相は14年間も首相を務め、現在のリー・シェンロン首相は後継者として2004年に就任しましたが、国会で与党が圧倒的多数を占めていることから政権基盤は磐石です。

 閣内最年少のバラクリシュナン社会開発青年スポーツ大臣は、私と同じ45歳ですが、6年前に国会議員に初当選した翌年から国務大臣として活躍しており、現在までに5回も国務大臣職に就いたベテランでした。多くの閣僚は、かなり長期間政府の要職にあって、思い切ったプロジェクトを実行できるということでした。

 また、主要マスコミが政権批判をすることは殆ど無いと聞いて不思議に思ったのですが、マスコミが政権批判をした場合に、政府の方が名誉毀損などで告訴することが多く、マスコミ側は慰謝料の支払いが大変なのだとか・・。

 このような政治状況ですから、内閣は思い切った施策を継続的に展開することが可能だということでした。

 日本は、シンガポールに較べると圧倒的に人口規模も面積も大きく、法制度の変更や国家予算配分については国会で長時間の審議を経る必要が有り、マスコミも自由な言論を展開する民主主義国家です。
 民主主義的手続きには時間がかかりますし、多くの国民の多様なニーズに応える為には、少数の国家プロジェクトに大胆に予算投入を続けることは困難です。
 
 単純にシンガポールと日本を比較することもできませんし、その必要も無いと思っていますが、それでも、将来の日本が経済成長を続ける為には、他国の戦略も研究しながら日本の良さを活かして国際競争力を強化していくことが大切です。

 私は、外国に出る度に、謙虚に他国から学ぶべき点も見つけるのではありますが、必ず日本の素晴らしさを再認識します。今回の旅でも同じでした。
 日本は、豊かな自然と多くの偉大な文化遺産に恵まれています。北から南まで多くの地域の個性溢れる風景や伝統があります。
 高度な教育を受けた国民と産業技術力があります。
 わが国は、観光立国としても技術立国としても、世界のトップに立てる可能性に満ちた国だと思います。
 自信を持って腰を据えて、国家戦略を定め、実行していけば、より豊かで元気で安全な社会が築けるはずだと確信しています。
 
 バラクリシュナン大臣との会談で印象的だったのは、「welfareよりも workfareだ」という言葉でした。
 Workfareとは、一般的には、「失業者が社会保障費を受給するには地域社会の仕事に従事する義務を負う制度」ですが、バラクリシュナン大臣は「福祉に頼る人を増やすのではなく、働く人を増やす必要」を訴えておられました。
 1人でも多くの人が希望する職に就き、広く薄く税金や社会保険料などの負担をすることで、失業者の福祉にかかる費用が減ると同時に、社会全体を支える財源も確保できます。これは、どこの国でも同じ理屈ですね。
 私も、自分の所掌範囲の中で、雇用創出や青少年の職業能力強化などに力を尽くしたいと思っています。

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