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食べ残されたえびになみだ(食育の現場から)

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 「食べ残されたえびになみだ」というお話があります。

 日本の大学に入る為にタイ国から来日したテムラック・チャオさんという青年が1993年に書かれた作文です。
 テムラックさんのお父さんは、タイで海老の養殖をしています。
 テムラックさんが日本に旅立つ前夜、お父さんが育てた海老を食べようとしたら、「それは、日本人の為に大きく育てた海老だ。お前のはこっちだ」と言って、小さな海老をくれたというのです。

 テムラックさんは、「自分の息子にさえ決して食べさせないほど、大事に育てた海老を食べることのできる日本人とは、いったいどういう人間なんだろう」と思いました。

 来日したテムラックさんは、色々なパーティーに出席しました。必ず海老フライが出てきます。
 ところが、パーティーが終わった後には沢山の海老が残されており、「その海老を見ていると涙が込み上げてきます」とテムラックさんは綴っています。

 以下、テムラックさんの指摘です。
「ひと昔前、『お米は、農家の人の血と汗の結晶だから、一粒たりとも、粗末にしてはいけない』と教えられたそうですね。しかし、現在の日本に、このような教えはまだあるのでしょうか」
「日本も、昔は『もの』が不足し、どんなものでも大事にして、常に感謝の気持ちを忘れなかったはずです。それなのに、今では『もの』があり余って、ありがたさをすっかり忘れています」
 世界の人口の5分の1にあたる人々が飢えに苦しんでいることを伝え、日本の小学生に対して、「毎日『いただきます』『ごちそうさま』と口に出している言葉の意味を改めて考えてください」と呼びかけておられます。

 このテムラックさんの作文は、埼玉県伊奈町立小室小学校で、6年生の道徳の授業に使っていた教材です。
 去る12月3日の日曜日に、小室小学校が食育の公開授業をされるというので、参観をさせていただいたのです。
 保護者の皆様や地域の方々が大勢学校に来られており、どの教室でも、子どもたちが元気一杯に授業を受けていました。

 「生活科」の時間では「野菜を育てよう」「かんたんおやつを作ろう」、「総合学習」の時間では「給食探検隊(給食から食を考える)」「お米をのぞいてみよう(お餅つき)」、「学級活動」の時間では「朝食を食べよう」、「道徳」の時間では「日本のお弁当」や上記の「食べ残されたえびになみだ」など、色々な科目時間を活用して、先生方が工夫しながら食育を実施されている様子が分かりました。

 小室小学校では、平素から地域社会の方々と協力し合って、児童の発達段階に応じた多様な学習機会を提供されているそうです。
 田んぼで生産・収穫を体験したり、生産者や調理師専門学校の学生さんと触れ合ったり、JA女性部の方々から箸の使い方を教えていただいたりしながら、子どもたちは「食と健康」「食への感謝」「国際理解」「食の安全」「地域で生産される食材」「命の大切さ」「職業への意識」「礼儀作法」などを学んでいるようです。

 渡辺校長先生のリーダーシップの下、先生方が熱心に教材開発や地域社会との協力体制作りに奔走された成果でしょう。
 野川伊奈町長はじめ教育長、教育委員長など、行政側が食育について大変に熱心なのも印象的でした。

 「食育に授業時間を割くことに、保護者のご理解は得られますか?」という私の質問に対して、渡辺校長先生は「まずは教職員が食育の重要性を理解し、熱心に取り組むことで、保護者のご理解はいただけます」と答えて下さいました。
 そして、食育が、単に「生活習慣教育」「健康教育」に留まらず、「キャリア教育」「消費者教育」「環境教育」「情報教育」「男女平等教育」「道徳教育」「地域・国際社会との交流教育」などの効果も得られるものであることを教えていただきました。

 昨年、国会で食育基本法が成立し、今年3月末には食育推進基本計画が出来上がりました。
 そして、この4月から、全国各地の学校現場や地域社会で食育への取り組みが本格的に始まりました。先般、初めての『食育白書』も発行されたところです。

 ところが、都道府県別、市町村別に見ると、食育への取組みには相当な温度差があります。
 あまり食育への取り組みが進んでいないという県の行政関係者に話を伺うと、「学校現場に栄養教諭を配置する財源が確保できない」「何を教えていいのか分からない」「授業時間の確保が困難」などの事情があるとのことでした。

 政府でも、今後、教材や教員研修を充実させたり、先進事例をきめ細かく紹介するなどの支援策が必要かと感じましたので、私なりに推進方法を考えて提案するつもりです。
 しかし、学校現場でも、改めて食育について話し合っていただき、それぞれに工夫をしていただきたいと思います。
 私が参観させていただいた小室小学校にも栄養教諭は配置されていませんでしたが、「どのような科目の授業でも、少し気をつければ食育の視点は盛り込める」とのことでした。

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