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日本版『国防生産法』検討の必要性

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 昨年から今年にかけて、米国のトランプ前大統領やバイデン大統領が、中国企業による米国企業買収に伴う安全保障上の懸念の払拭や、新型コロナウイルス感染症対策の為に、『国防生産法』に基づく措置を取ったという報道が、相次ぎました。

 

 昨年8月14日には、当時のトランプ大統領が、TikTokを運営する中国のバイトダンス社に対して、国家安全保障上の懸念を理由に、90日以内にTikTokの米国事業に関する全ての資産及び権利の売却を命じる『大統領令』に署名しました。

 

 『大統領令(Executive order)』とは、連邦議会の承認を得ることなく、大統領の執行権限に基づいて発せられる命令で、日本の『政令』に似ています。

 

 8月14日の『大統領令』は、『国防生産法』第721条に規定する「国家安全保障の脅威とみなす取引」を制限する大統領権限に基づき、発出されました。

 

 目的は、中国のバイトダンス社が2017年に行った米動画アプリ企業Musical.ly社の買収や買収に起因する取引を禁止することです。

 バイトダンス社は、Musical.lyを吸収することにより、TikTokを、米国を含む世界各国の市場に急拡大させていました。

 

 具体的措置としては、バイトダンス社に対して、90日以内に、「対米外国投資委員会(CFIUS)」が課す条件の下、TikTokの米国内での運営に係る全ての資産の売却、そして、TikTokを通じて得た全ての米国内利用者の情報の破棄を命令しました。

 

 「対米外国投資委員会(CFIUS)」は、措置の完了まで、バイトダンス社に対して立入検査を含むあらゆる措置を取ることができる他、措置完了の監査権限や、TikTok米国事業の売却先を承認する権限を有します。

 

 また、トランプ大統領は、昨年3月27日にも、『国防生産法』に基づき、自動車大手のGM(ゼネラル・モーターズ)に対して、新型コロナウイルス感染症の患者増加で不足していた人工呼吸器の製造を命じています。

 

 今年1月に就任したバイデン大統領は、『国防生産法』に基づき、医薬品メーカーであるメルクの工場を、ライバル企業であるJ&J(ジョンソン・エンド・ジョンソン)のワクチン生産に転用できるようにし、米国内のワクチン生産を加速させました。

 米国政府は、メルクがワクチン生産や瓶詰めをする設備を導入できるよう、1億5000万ドル(約110億円)を投じたと報じられました。

 

 さて、この『国防生産法』(Defense Production Act of 1950)ですが、朝鮮戦争下で制定されたもので、政府に対して、緊急時に産業界を直接統制できる権限を付与する法律です。

 

 制定後、50回以上の改正・延長を経て、現在、効力を有するのは3つの編(第1編、第3編、第7編)だそうですが、それぞれの内容をご紹介します。

 

 第1編「優先と配分」:大統領が、人々(法人や事業体を含む)に対して、国防の為に必要な資源・サービスに係る契約を優先し、かつ受諾・実施するよう要求し、また、大統領が国防に必要とみなす範囲で、資源・サービス・機能を配分する権限を与える。

 

 第3編「生産能力と供給の拡大」:大統領が、国内の産業基盤に対し、重要な資源や物品の生産と供給を拡大するようにインセンティブを与える権限を与える。

 インセンティブの方策としては、融資、融資保証、直接購入、購入約束、民間産業施設に対する設備の調達・導入など。

 

 第7編「一般規定」:大統領が持つその他の個別の権限などを規定。

 競合関係にある民間企業等が(通常であれば反トラスト法に抵触し得るような)自発的な合意や行動計画を結ぶことを許可する権限。

 国家安全保障上の脅威を及ぼすような外国企業による企業合併や買収を阻止する権限。優れた経験・能力を持つ人物を雇い、国防上の利益の為に政府の用務に呼び寄せることが可能な、産業界の要人有志の集合体を設置しておく権限など。

 

 前記した米国の3つの事例は、第3編と第7編に該当するものだと思います。

 

 日本でも、新型コロナウイルス感染症対策としては、ワクチンの国内におけるライセンス生産を強化するべき時ですし、注射器や人工呼吸器や麻酔薬の不足が問題視されています。

 経済安全保障上の懸念としては、半導体不足に加え、最近はテンセントへの心配の声も多く伺います。

 

 日本版『国防生産法』といった枠組みの法律の制定に向けた検討が必要だと考えています。勿論、緊急時であっても民間企業に生産協力を求める場合には、十分なインセンティブを用意する必要があります。

 

 また、2020年に施行された『改正外為法』では、安全保障上、重要な業種については「審査付き事前届出義務」を課していたはずですが、「事前届出免除」の対象を拡大し過ぎたきらいがありますので、財務大臣はじめ各事業所管大臣による『共同告示』の改善が必要だと感じています。

 

 また、1つ目の事例で書いた「対米外国投資委員会(CFIUS:Committee on Foreign Investment in the United States)」とは、外国企業による合併や買収等について、主に国家安全保障の観点から調査する米政府の省庁間委員会です。財務長官が議長を務め、国防省、国務省、司法省、国土安全保障省、商務省等から構成されています。

 

 日本では、主に財務省や経済産業省(内閣府、総務省、文部科学省、厚生労働省、農林水産省、国土交通省、環境省も関係)が対応していますが、対日投資について、国家安全保障や経済安全保障の観点から十分にチェックして対応する体制を強化しなければなりません。

 

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